おもしろすぎる東大英語読解・増刊号

 

毎度「おもしろすぎる東大英語読解」をお読みいただき、ありがとうございます。

塾や世間では、私は英作文指導のエキスパートということになっておりますので、東大英語読解を一度お休みして、過去30年の入試問題から、私が一番気に入っている英作文の問題を紹介、解説したいと思います。

 

 

◎ 次の文章を読んで、以下の問いに答えなさい。大阪教育大学(2006年)

 

(1)あるとき、英語学校の先生に恋をしてしまった。しかし、私の英語力には限界がある。気のきいたこと、二人の間を近づけるようなことは何一つ言えない。日本語でも言えないんだから、英語で言えるわけがない。自然、会話はとぎれがちになる

その先生がアメリカに帰ることになった。今日で最後だというそのレッスンも、私の「アー——」とか「ウー——」だけで終わりかけていた。

ベルが鳴った。

何か言わなければ、と思った。

一生懸命考えて、「(A)あなた、退屈だったでしょう、そうじゃない?」と言った。

「退屈」という言葉は辛うじて知っていた。ドイツを旅行したとき、英語でガイドをしてくれた男の子が、「この町は退屈だ」「この城は退屈だ」と、すべて「ボアリング」で片付けていったからである。

「ボアリング!?」

と、先生は信じられないというような顔で聞き返してらした。

私は先生の目をヒタと見返し、ことさらまじめな顔を作って言った。

「イエース!」

突然、先生が椅子から立ち上がった。そして、ドアを閉める音も荒々しく出て行ってしまった。

私は泣きながら家に帰った。

(2)泣きながら辞書をめくってみた

そしてもう一度泣いた。

「ボアリング」ではなく、「ボアード」を使うべきだったのだ。

「あなたって、退屈ね、そうじゃないこと」と、私は言ったのだった。そして「退屈?」と色をなした先生に向かって、冷たく「イエース!」と言い放ったのであった。

 

問1 下線部(1)を、英語に訳しなさい。
問2 下線部(2)を、英語に訳しなさい。
問3 下線部(A)について「私」は実際にはどう言ったのだろうか、「私」が言ったと思われる表現を英語で答えなさい。
問4 下線部(A)について「私」が本来意図していた内容にするには、どう表現すれば良かったのだろうか、英語で答えなさい。
問5 あなたがこれまで中学校、高校、塾、予備校、英会話学校などで習った英語の先生の中から一人選び、その先生との思い出について、100語程度の英語で述べなさい。先生は英語のnative speakerである必要はありません。

 

 

どうです、面白いでしょう。

生徒が先生に恋心を持つことはままあります、私も髪があった頃は女子生徒にそれなりに人気がありました(自慢)。

このお話で私が一番好きなところは、女の子が二度泣くところです。

一生懸命教えてきたのに、「あんたって、退屈な男ね」って言われたら、そりゃ、温厚な私でも怒りますよ。

また、内容が面白いだけでなく、設問もよくできています。

 

問1

私は塾でこの問題を使っています。ほとんどの生徒が第2文(しかし~)以降を現在形で書きます。もちろん、第1文からわかるように、すべて過去形で書かなければなりません。

日本語と英語の大きな違いの1つが動詞の時制です。日本語には西洋の言葉ほどはっきりとした時制の区別がありません。というか、厳密な時制の概念がないと言っても過言ではありません。

たとえば、「~してしまった」や「~しちゃった」という言い方はしても、日本語には現在完了という明確な概念は存在しません。ですから、「~した」を英語で過去形で訳すか、現在完了形で訳すかで頭を悩ます受験生が出てくるのです。

「私は医師になる決心をした」は、

I decided to be a doctor.なのか、I have decided to be a doctor.なのか?

過去の起こった状態や行われた動作が何らかの形で現在とつながりがあれば現在完了形を使います。ですから、医師になる決心をして、今もその決心が変わっていないことを表わすには、have decided。過去形を使うと、医者になる決心が今どうなったかがわからないのです(一度医者になろうと決めたものの、諦めた、とか)。

この一例を見てわかるように、1文1文の日本語から英語の時制を決めるのはとても危険です。

この文をすべて過去形で表すと、

「あるとき、英語学校の先生に恋をしてしまった。しかし、私の英語力には限界があった。気のきいたこと、二人の間を近づけるようなことは何一つ言えなかった。日本語でも言えなかったんだから、英語で言えるわけがなかった。自然、会話はとぎれがちになった

とても単調な語尾で、ひどい日本語になってしまいますよね。また、物語は臨場感をもたせるために現在形を使うことがよくあります。それでも、文章全体からいつのことかが判断できるのです。

この文も第1文で「あるとき」と言っていますから、すべて過去の話です。現在形が使えるとしたら、「日本語でも言えない」というところだけでしょう。これはこの女の子の性質で、今も変わってないかもしれません。ただし、この女の子はこの一件に発奮して英語を猛勉強し、今では抜群の英語力を持っている可能性がありますから、第2文に現在形は使えません。

<語彙・構文>

〇「あるとき」once, many years ago, one time。

〇「学校の先生」を正しく書ける生徒は意外と少ないですね。the teacher of the [one’s] schoolと書く人が多いですが、学校に先生はたくさんいますから、a teacher。「学校の先生」は「学校で教えている先生」と考え、a teacher (teaching) at the [one’s] school。前置詞に注意しましょう。

〇「英語力に限界がある」日本語では「~力」という表現が好まれます。入浴剤の宣伝文句に「すぐれた炭酸力」とあるのに苦笑したことがあります。power, ability, skillはあるかないかで、英語には「~力」が高い、低いという発想はありません。My English ability is limitedより、「私の英語は決して流暢ではない」と考えるか、もっと簡単に「私は英語が苦手だ」と考えた方が無難です。

〇「気のきいた」interesting, attractive, nice。

〇「二人の間を近づける」bring us closer。日本語には比較級がはっきりとは現れませんので、make us closeと書く生徒が多いですね。また、これから二人の間を近づけるわけなので、この時点に戻れば未来の話。would bring us closerにします。

〇「会話はとぎれがちになる」pause「途切れ、中断」という名詞を使うと簡単です。「スムーズに会話を続けることができなかった(can’t carry on a conversation smoothly)」とか, 「会話が頻繁に中断された(our conversation was often interrupted)」と訳してもいいです。「~しがち」はtend to V ~を使わずに、oftenにしましょう。

<解答例>

Once I fell in love with a teacher at my English school. But since I was far from fluent in English, I couldn’t say anything interesting or what would bring us closer. I couldn’t say such a thing even in Japanese, so of course I couldn’t in English. Naturally there were many pauses in our conversation.

 

問2

〇「辞書をめくる」をどう書くか?「本のページをめくる」はturn over pages of a bookとか、leaf through a bookと英訳できますが、「辞書をめくる」は「辞書を引く」、「辞書で単語を調べる」と考え、consult a dictionary (for the meaning of boring)が簡単です。英和辞書はふつう一冊しか使わないのでthe[my] dictionaryが自然でしょう。

〇「泣きながら」文頭に1語の分詞構文を置くのはバランスが悪いので、文尾に補語として置きます。

<解答例>

I consulted my dictionary crying.

どうしても分詞構文を使いたいのであれば、文脈からずっと泣き続けていたと判断できますので、Still crying, I consulted the dictionary.にします。

 

問3

感情を表わす英語の動詞はほとんどが「人を~させる」という他動詞。たとえば、surpriseは「人が驚く」ではなく「人を驚かす」、disappointは「人が失望する」ではなく「人を失望させる」です。したがって、「人が驚く」は「人が驚かされる」となり、be surprised、同様に「人が失望する」はbe disappointed。もっとも、surprisedもdisappointedも、もはや過去分詞ではなく形容詞なので、受動態とは考えずby以外の前置詞が続きます。

この感情を表わす現在分詞型と過去分詞型の形容詞の使い分けは、受験生を悩ませます。

結論は、Vedが人の感情を表わす形容詞で(人が~である)、Vingが人に感情を起こさせる形容詞です(人にとって~である)。

the exciting game   The game was exciting.

the excited audience   The audience was excited.

修飾される名詞や主語(目的語)が人の場合はVed、物の場合はVingになることが多いですが、男の子の胸を躍らせる女の子はもちろんan exciting girlです。

第5文型の文ですと、とくに間違いやすく、

「そういった質問はアメリカ人を不快にする」を、

Such questions make Americans unpleasant.と書く生徒をよく見かけます。pleasant=pleasing「人にとって快適な」。第5文型はOがCであるという関係が成立しますから、これだと「アメリカ人が(他人にとって)不快な奴らだ」の意味になってしまいます。正しくはunpleasantではなく、pleasedの否定形のdispleased。

「アメリカ人はそういった質問を不快に思う」はもちろん、

Americans find such questions unpleasant.です。

設問に戻りましょう。

この女の子はboringを「人が退屈している」と勘違いしています。「そうじゃない?」は付加疑問文で表すとして、

<解答例>

You were boring, weren’t you?

 

問4

「人が退屈している」は正しくはboredですから、

<解答例>

You were bored, weren’t you?

 

問5

「あなたが出会った最高の先生」とか「あなたにとって理想の先生」というテーマの自由英作文がよく出題されます。

自由英作文で重要なのは文法や表現の正しさであって、内容は二の次ですし、事実である必要は全くありません。

かつて、慶應大学の経済学部が、There is no right or wrong answer. Pay attention to grammar, spelling, the connecting words, and logic.、東京大学が

「適宜創作をほどこしてもかまわない」と(注)を付けたこともありました。

大学入試でも英検でも、ぶっつけ本番で自由英作文を書いても、まず合格答案は書けません。わずか20分程度で100語前後の文法的にも論理的にも破綻のない英文を書くことは、一般的な受験生には不可能です。

出題される可能性の高いテーマに関して、使える語彙や構文をあらかじめ覚える以外に対策はないと思ってください。面接やスピーキングも全く同じやり方で対処できます。大学3年のとき、私はこの方法で英検1級のスピーキング試験を切り抜けました。

まず、導入。「河村先生が私が最も尊敬している先生だ」とか「河村先生が私に最も大きな影響を与えた先生です」から入ります。

Mr. Kawamura is the teacher I respect most.

Mr. Kawamura is the teacher who has had the greatest influence on me.

<暗記語句>「~に—な影響を与える」have a ~ influence[effect] on—。これは自由英作文で最も広く使えるイディオムです。

次に、河村先生との関係を書きます。「河村先生は中学時代の私の先生だ」

He was a teacher at my junior high school.

the[my] teacher of my junior high schoolにしないように(問題1を参照)。

ここからが本題です。なぜ河村先生を尊敬しているのか?自由英作文で一番重要なのは理由付けです。理由は具体的に2つ以上書きます

理由①「河村先生は厳しいが、生徒をえこひいきしなかった」

<暗記語句>「生徒に厳しい」be strict with students、「生徒をえこひいきしない」be impartial and fair to students。

He was very strict with, but impartial and fair to us.

理由②「先生の口癖は『何かを始めたら、最後まで頑張れ。あきらめないことほど大事なことはない』だった」

<暗記語句>「最後まで頑張る」stick to ~、「~ほど大事なことはない」Nothing is so important as [more important than] ~。

He would often say, “Once you begin something, stick to it! Nothing is more important than never giving up.”

「先生は人生で最も貴重な教訓を教えてくれたのであった」

<暗記語句>「人生の最も貴重な教訓」the most valuable lesson of life。

He taught me the most valuable lesson of life.

これに、たとえば「中学2年のとき、私は部活と勉強の両立に苦しんだ。河村先生に相談すると」という感じで話をふくらませると語数のハードルがクリアできます。

<暗記語句>「~に苦労する」have great difficulty (in) Ving ~、「部活と勉強を両立させる」keep up both schoolwork and club activities、「先生に相談する」ask the teacher for advice。

まあ、白々しい内容になりましたね(苦笑)。でも、これでいいのです。面白いことを書く必要はありませんから。

 

受験生のみなさん、お書きになった自由英作文を添削ご希望であれば、ご遠慮なくFORUM-7ジーナスの河村までご連絡ください。

 

次回の「おもしろすぎる東大英語読解・第6話」にご期待ください。