前回は文法問題を通して、大学入試問題の中心が語順の変化、とくに倒置形だということを解説しました。今回は読解問題で再確認します。
その前に、難関大学の入試問題の特徴をもう1つお教えしましょう。レベルの高い大学と低い大学の入試問題には大きな違いが1つあります。それは偏差値が上げれば上がるほど、問題の文脈依存度が高くなることです。
たとえば、やさしい大学は本文中のaccount forに下線が引いてあり、その言い換えとして、explainを選ばせる問題を出します。前後関係がわからなくても、イディオムと典型的な言い換えを覚えていれば解ける問題です。
ところが、早慶から上の大学になりますと、このような問題はほとんどなくなり、文脈を理解していなければ正解の出ない問題が中心となります。そして、文脈依存度が最も高い大学が東京大学なのです。
では、本題に入ります。
東大、京大といった難関国立大学では文法問題と同じく、語順の変化(強調・倒置・省略)が大きなテーマです。まず、練習問題を2題見て、その後で東大、京大の問題にチャレンジしましょう!
問1 次の英語を日本語に訳しなさい。
No society regards as food everything in its environment which can provide nourishment.
解説
ポイントはregardsの目的語がeverything ~ nourishmentであるということ。
英語は言葉の長いかたまりをなるべく後ろに置きます。人間の体型のように、頭や胴は短く、足が長い方が好まれるのです。形式主語や形式目的語はそのためにあります。本来、第3文型はS V O M(前置詞+名詞)の語順ですが、OがMより長いときには、典型体な胴長短足になりますので、OとMの語順を入れ替え、S V M Oにします。要するに目的語が動詞から離れ、文の後ろに置かれるわけです。
どうしたら、目的語の後置に気づくことができるか?1つはまず動詞の語法をしっかり頭に入れることです。regardはregard ~ as —(~を—と見なす、考える)で使われることが圧倒的に多い他動詞。regard asという語順は受動態(be regarded as)のときだけです。次に、foodとeverythingがつながらないことに気づくこと。この2つから、regard everything ~ nourishment as foodの目的語が長いため、regard as food everything ~ nourishmentの語順に変わったことがわかるわけです。
Noとeverythingで部分否定になることや、whichの先行詞がenvironmentではなくeverythingである点にも注意しましょう。
(訳例)どんな社会も、その環境にあって、栄養を与えることができるあらゆるものを食べ物と見なすとは限らない。
問2 次の英文の下線部を日本語に訳しなさい。
Dogs can understand about one hundred and fifty of our words, signs, and signals, and in turn produce some thirty or fifty sounds that we can understand. Add to that their multitude of looks and gestures, and you have the basis for genuine communication.(下線部のみ)
解説
文全体は、命令文~, and —(~しなさい。そうすれば)。addは自動詞として、add to ~「~を増す」という使い方がありますが、基本は他動詞でadd ~ to —「~を—に足す、付け加える」。指示形容詞(this, that, these, those)と代名詞の所有格は並べませんから、thatとtheirはつながらないはず。だから、add their multitude of looks and gestures to thatが、add to that their multitude of looks and gesturesの語順に変わったと考えるわけです。このthatは前文(Dogs ~ understand)を指します。thisやthatが前文(の中心)を指すのは重要事項です。
(訳例)犬は約150の人間の言葉、身ぶり、合図を理解でき、同様に、人間が理解できる約30から50の音を発することができる。それに犬のいろいろな顔つきや仕草を加えれば、本物の意思疎通の基盤が手に入る。
では、これまでの知識を踏まえて、東大の語順変化問題にチャレンジ!
問3 次の英文の下線部を日本語に訳しなさい。
All great men must be viewed in two distinct aspects. There is the limited aspect in which they are great, and there is the other aspect in which they are ordinary human beings like the rest of us. No great man lives constantly on the level of his vision. Like the rest of us, in their daily lives all are largely preoccupied with petty concerns; they are prone to be moved by jealousy or bad temper, to say foolish things, to act meanly, and to behave inconsiderately towards those who are close to them. Our need for worship, however, generally makes us disregard or deny what is ordinary in a great man. For the man as he was we substitute, sometimes while he is still alive, a legend.
解説
どの時代も、人々は英雄を必要とします。英雄とて人間なのですが、一般大衆は英雄の超人的な部分だけを見ようとします。
アイドルも同じですね。最近でこそ、どこにでもいるアイドルという概念が定着したようですが、私が中高生の頃、アイドルはトイレに行かないと思われていました。
1文目は訳せます。問題は第2文です。さて、文頭のForはどういうforでしょう?そうです、regard ~ as —、add ~ to —と同様に、substitute ~ for —(—の代わりに~を使う。—に~を代用する)のfor —が文頭に出たのです。as S be動詞は「ありのまま、そのまま」。直訳すると「ありのままの男の代わりに伝説を使う」→「ありのままの人間を伝説に置き換える」。
この語順の変化はやはり挿入部分(sometimes ~ alive)がついて、目的語のa legendが長くなったためです
substituteの語法を知っていて、語順の変化に注意していれば、簡単ではありませんが、訳せない問題でもありません。
単語や熟語の意味さえ知っていれば訳せる、難関国立大学はそんな和訳問題はまず出さないのです。
(訳例)あらゆる偉人は2つの全く違った面から見られなければならない。彼らが偉大であるのは限られた面においてであり、もう一面においてはその他の人々と同様に普通の人間である。いつでも自分の理想像の水準で生活をしている偉人は1人もいない。その他の人々と同様に、日常生活においてはみんなつまらない関心事に大部分心を奪われている。嫉妬や機嫌の悪さに動かされ、馬鹿なことを言ったり、卑劣な振る舞いをしたり、身近にいる者に対して思いやりのない行動をする傾向がある。しかし、私たちは崇拝する英雄を必要とするため、概して偉人の普通の部分を無視したり、否定したりする。ときにはまだ生きている間に、ありのままの人間を伝説上の人物に置きかえたりするのだ。
最後に、京大の問題を見て終わりにしましょう。テーマは省略です。
問4 次の英文の下線部を日本語に訳しなさい。
Broadly speaking, attempts to answer fundamental questions dealing with the creation of the universe and the creation of life have, throughout recorded history, been of two kinds ― the physical and the metaphysical.
The metaphysical approaches have assumed the existence of a supreme, and usually divine, creator whose ends and means have been either revealed to, or otherwise perceived by, selected individuals in an extra-sensory manner (e.g., mystical experiences, dreams, etc.). Those who have not had the benefit of such direct experiences have either accepted or rejected the ‘evidence’ of those who have as a matter of personal preference ― acceptance, of course, being an act of faith rather than of reason. (下線部のみ)
(注)physical「形而下の」、metaphysical「形而上の」、extra-sensory manner「超感覚的に」
解説
宇宙や人類の誕生を科学的に考えるか、創造主の存在を前提に考えるか?という内容です。
私なんか、正直ビッグバンも神もどちらもピンときません。それはさておき、下線部のthose who have as a matter of personal preferenceに注目。もしhaveが動詞ならば基本他動詞はですから、目的語はなんでしょう?as以下の修飾語が前に置かれたと考えるにも、この文はpreferenceで終わっており、目的語は後置されていません。
haveのあとに目的語がないとき、まず考えるべきは現在完了のhaveに続く過去分詞が省略された形です。英語の省略はシンプル。前に出ている部分が省略されます。この文の現在完了形は文頭のThose who have not had the benefit of such direct experiencesですから、those who haveのあとには過去分詞had ~ experiencesが省略されているのです。
神秘的な体験をしたことのない人はしたことのある人の話を、個人的な好みの問題として、信じるか、拒否するしかない。そして、受け入れたとしても、それは理性的な行為というより、信仰的な行為である、と文脈も通ります。
(訳例)大雑把に言えば、宇宙の創造と生命の創造に関わる根本的な問題に答えようとする試みには、有史以来二種類のもの、すなわち形而下的なものと形而上的なものがある。
形而上の試みは最高の創造主、普通はその目的や手段が選ばれた個人に超感覚的に(たとえば、神秘的な体験や夢など)啓示されるか、そうでなければ感知される神聖な創造主の存在を想定した。そのような直接的体験の恩恵を受けなかった人々は、受けた人々の「証拠」を個人的な好みの問題として、受け入れるか拒むかのどちらかであった。もちろん、受け入れることは理性というよりむしろ信仰的な行為だった。
いかがでしたか。英語は語順の言語。そして、大学入試は語順の変化が最大のテーマであることが理解できたでしょうか。