第5話 『踊るハンブルグ帽』(1993年)

解説の都合上、英文をいくつかの段落に分けます。通して読みたい方は最後に全文と全訳が掲載されていますので、ご参照ください。

 

One day, not long after I had started working for him, Mangiarotti said, “That’s enough work for today. Clear up, will you? I’ll be back in ten minutes.” It was typical of him to spring surprises on people, to do things ( (1) ) warning or explanation. I cleaned the paintbrushes carefully, knowing that Mangiarotti would make a fuss if even one tiny speck of paint remained on them. I wasn’t scared of him exactly, but he was a man with a sharp tongue, and I tried not to upset him. I packed everything away in the proper, Mangiarotti order: ladders on the left, buckets on the right, and so on.

 

今回はペンキ屋さんのお話です。おっと、いきなり、設問(8)の答えを言ってしまいました(苦笑)。

初めてこの英文を読んだとき、なんてシュールな話なんだろうという感想を持ちました。東大第5問史上、最も不思議な物語です。

主人公がMangiarottiの下で仕事をし始めて間もない頃、Mangiarottiは「片づけてくれ。10分で戻る」と言い置き、姿を消します。

Mangiarottiの日本名は万城貫太郎にしましょう。

 

設問(1) 空所(1)を埋めるのにもっとも適当な1語または語群は、次のうちどれか。その記号を記せ。

(ア)on  (イ)through  (ウ)without  (エ)in spite of

 

動詞として用いられるspringには「急に持ち出す、言い出す」の意味があります。springは「春」でも「ばね」でも「泉」でも、弾け出す感覚を表します。

spring surprises on peopleで「人が驚くことを突然する」の意味。to spring surprisesとto do以下は同格です。「突然何かをしだす」わけですから、万城は相手に警告や説明なしに物をやる男なのですね。ちなみに、surprisesと複数形になっているのは、「人が驚くべき具体的な事柄」の意味だからです。抽象名詞も具体性を帯びると加算名詞になります。

 

(答え)ウ

 

第1段落から主人公の万城評の一部がありますので、わかりやすくするために、問題の順番を無視して、ここに設問(9)を置きます。

 

設問(9) Mangiarottiの性格を述べた文として、本文の内容と一致するものを2つ選び、それらの記号を記せ。

(イ)He is rather boastful.

(ロ)He has a pleasant manner.

(ハ)He is a man of few words.

(ニ)He is careless in his work.

(ホ)He is always in high spirits.

(ヘ)He has an impatient temperament.

(ト)He is always ready to help people.

(チ)He likes driving around in his car.

 

人が驚くことを突然しでかしたり、口が悪かったり(a man with a sharp tongue)というところから、(ロ)「感じのいい物腰である」は×。また、knowing以下の分詞構文と最終文から、万城が几帳面であると読みとれますので、(ニ)「仕事がずさんである」もダメです。

気短かで、きれい好きで、口が悪い。逆いやし系の万城に対して、「べつに怖いわけではないが、まあ、なるべく怒らさないように」と主人公はなかなか大人の接し方をしています。

職人としての腕は一流だし、外見も渋く、いい男なのに、40を過ぎても万城が独身なのは(この辺りの人物設定は私の独断です)、ひとえに物語の後半で明かされる事情のためです。

万城は小林薫をイメージして、読んでみてください。主人公は神木隆之介で。

のっけに答えを言ってしまいましたので、設問(8)も片づけてしまいましょう。

 

設問(8) 語り手はMangiarottiの助手として、ある職業に従事している。その職業名を日本語で記せ。

 

画家と答える人がたまにいますが、画家はladder(はしご)やバケツは使いませんし、画家ならば、主人公は助手というより、弟子ではないでしょうか?

 

(答え) ペンキ屋(塗装業)

 

 After about a quarter of an hour a car pulled up, and there was Mangiarotti, at the steering-wheel of an old black Citroën. His face was gloomy as usual.

“Get in!” he said. The car pulled away quickly with a squeal of tyres before I’d hardly had a chance to close the door.

 

15分ほどで、万城はシトロエンに乗って戻ってきます。フランスの高級車シトロエンは、日本ではなじみの薄い車ですが、乗り心地は抜群です。車好きの知己がC6とピカソに乗っています。

万城の顔はいつものように憂鬱(gloomy as usual)です。ということで、設問(9)の(ホ)He is always in high spirits.(いつも機嫌がよい)は間違い。

万城は神木に「乗れ」と言うや、神木がドアを閉めるか閉めないかのうちに、タイヤをきしませて急発進します。ここから、設問(9)の(ヘ)He has an impatient temperament.(せっかちな性格である)は正しいですね。

 

 “Where are we going?” I asked.

He did not reply, which was his way of telling me to ( (2) ) my own business. I decided to settle back and enjoy what I ( (3) ) of the ride ― after all it was better than standing on a ladder painting shop fronts. I hadn’t the slightest idea where we were going, but we were soon out of Paris and in open countryside. With typical suddenness, Mangiarotti screeched to stop by the roadside and switched off the engine. I looked at him. He was staring straight ahead. I followed his gaze, but ( (4) ) I could see was a country road with a hedge running alongside it.

 

「どこへ行くんですか?」との神木の問いに、万城は答えません。replyの後のwhichは前文を先行詞にする非制限用法の関係代名詞です。簡単な例文で確認しましょう。

He said he was single, which was a lie.「彼は独身だと言ったが、それはウソだった(奥さんも子どももいた)」。whichは前文He said he was singleを指すitが関係代名詞に変わったものです。

本文のwhichはHe did not replyを指しています。つまり、返事をしないことが、万城が神木に「~しろ」と命じるやり方なのですね。

ここまで読むと、万城が口数の少ない男(a man of few words)とわかります。設問(9)のもう1つの答えは、(ハ)です。

 

設問(9)(答え)ハ、ヘ

念のために、(イ)「かなり自慢げである」、(ト)「進んで人の手助けをする」、(チ)「自分の車でドライブするのが好きだ」。

 

設問(2) 空所(2)を埋めるのにもっとも適当な1語はなにか。その1語を記せ。

 

万城は「余計なことは聞くな」と言いたいのです。Mind your own business.で「余計なお世話だ」という意味。None of your business.も同じ意味ですね。

 

(答え)mind

 

設問(3) 空所(3)を埋めるのにもっとも適当な1語は、次のうちどれか。その記号を記せ。

(ア)did  (イ)had  (ウ)was (エ)could

 

質問を黙殺された神木は、じっくり腰をすえ、何をすることに決めたのか?after all(なんといっても)、万城がどんなに不機嫌でも、梯子に乗って店先にペンキを塗っているよりはましだ、という文脈も重要ですが、東大英語は一にも二にも省略。(ア)だと、didはenjoyedを指す代動詞になります。このofは「~から」の意味で、「私がこのドライブ(rideは「車に乗ること」)から楽しんだこと」との意味になりますが、ドライブはこれからです。(イ)だとhad enjoyed(過去完了形)で、ドライブがもう終わったことになるし、(ウ)だと受動態(was enjoyed)になり論外。この時点にタイムトリップしましょう。そうすると、enjoy what I can (enjoy) of the ride「私がこのドライブから(これから)楽しめることを楽しむ」になりませんか?それが時制の一致を受けたものが、what I could of the rideです。

 

(答え)エ

 

話を進めます。

神木はどこへ向かっているか皆目見当がつきませんが、車はまもなくパリを出て郊外へ。

いかにも万城らしく、突然道端に車を急停車させ、エンジンを切ります。万城は真っ直ぐに前を見ています。神木がその視線を辿ると—。

 

設問(4) 空所(4)を埋めるのにもっとも適当な1語はなにか。その1語を記せ。

 

設問(4)の誤答で最も多いのが関係代名詞のwhat。

文脈を追ってみてください。whatですと「しかし、私に見えたのは~だ」となりますが、田舎道とそれに沿って続く垣根が見えるのは当たり前。万城が凝視している以上は何か特別なものが見えなければなりません。だから、「私に見えたのは~だけだ」でないとおかしいのです。この辺りの思考が「東大の第5問は現代文の試験だ」と言われるゆえんでしょう。そこまで考えられた人の多くがonlyを入れます。ところが、onlyは副詞ですから、I could seeをつなげられません。I could seeをつなげられて、しかも「~だけ」の意味になるもの。そうです、allです。

このallは代名詞で、後ろに省略されている関係代名詞thatの先行詞。all (that) S V ~は直訳すると「SがVするすべてのもの」。たとえば、All I know about her is her name.は直訳すると「私が彼女について知っているすべてのことは彼女の名前だ」。ということは、「私が彼女について知っているのは名前だけだ」。

all (that) S V ~のallはonlyを表わします。受験生に最もおなじみの構文は、All you have to do is (to) V ~「きみは~しさえすればいい」= You have only to V ~です。

このall構文は24年の時を経て、2017年第5問設問(A)で再び出題されました。

 

(答え)all

 

 A movement on the grass verge caught my eye. It was a hat, an old black Homburg, the sort that businessmen used to wear, and it appeared to be alive. It moved forward, stopped, disappeared, bobbled up again for a second, then moved forward and disappeared again. It was such a ridiculous sight that I burst out ( (5) ), but Mangiarotti, who was also watching the hat, remained serious-faced.

 

ここで、道路べりの草地で動くものが神木の目に留まります。それは帽子、古くて黒いホンブルグ帽でした。ホンブルグ帽は正装用に用いられるもので、てっぺんの中央に折れ目がついています。イギリスのチャーチル首相が愛用していました。

帽子はまるで生き物のような動きをします。それがあまりにも滑稽なので、神木は思わず噴き出しますが、万城は神木同様、帽子を見ているのにもかかわらず真剣な表情のまま。

 

設問(5) 空所(5)を埋めるのにもっとも適当な1語はなにか。その1語を記せ。

 

burst out laughing = burst into laughter「急に笑う、どっと笑う」は東大の大好きなイディオムの1つ。前置詞がoutだと動名詞(laughing)、intoだと名詞(laughter)になる点に注意しましょう。「急に泣き出す」はburst out crying = burst into tearsです。

 

(答え)laughing

 

 As I turned again to look, it rose a couple of inches, revealing that there was a head underneath. It dawned on me that there was a ditch between the grass verge and the hedge, and that the wearer of the hat was down in the ditch. Mangiarotti got out of the car, and walked towards the mysterious hat. I didn’t know (6) whether I was supposed to follow him or stay in the car. My curiosity got the better of me, so I got out and hurried to catch up with him. He stood by the roadside, staring down at the hat and talking brusquely to it in an Italian dialect which I could not understand. I looked down too, and saw, under the hat, the red, wrinkled face of an old man. Despite the hot summer’s afternoon, he was wearing a black fur-collared overcoat which perfectly matched his ancient Homburg. The amazing thing was that, although he was ( (7) ), his head barely cleared the top of the ditch. He was an extremely short man, and his small stature was exaggerated by the bent body of old age.

Mangiarotti held out his hand to the old man and pulled him out of the ditch, roughly, as if he were a straw doll. Then we all got into the car, and started back for Paris.

 

帽子が2、3インチ持ち上がり、その下に顔があることが判明します。道と垣根の間には溝があり、帽子を被っている人間がその溝の中にいるようです。

万城は車を降り、帽子へ歩み寄ります。それを見て、神木は—

 

設問(6) 下線部(6)の意味は次のうちのどれか。その記号を記せ。

(ア)彼について行けるかどうか

(イ)彼について行った方がよいのかどうか

(ウ)彼について行こうと思っているかどうか

(エ)彼について行きさえすればよいのかどうか

 

be supposed to V ~は「~することになっている」の意味で、①予定と②軽い義務を表わすイディオムです。「ここで靴を脱ぐことになっています」と言われたら、脱がなければなりませんよね。≒ shouldと思ってください。

 

(答え)イ

 

— 好奇心に負け、神木は急いで万城の後を追います。万城は帽子を見下ろし、神木にわからない方言で無愛想に話しかけます。

帽子の下には、赤く、皺だらけの老爺の顔が。老爺は暑い夏の昼下がりにもかかわらず、古めかしいハンブルグ帽に似合いの、毛皮の襟がついた黒いコートを着ています。

驚いたことに、老爺は(設問7)していたにもかかわらず、頭が溝の上にかろうじて出ているだけでした。

 

設問(7) 空所(7)を埋めるのにもっとも適当な語群は次のうちどれか。その記号を記せ。

(ア)sitting up          (イ)reaching up

(ウ)crouching down     (エ)standing upright

 

そのあとに、老爺は極端に背が低く、その小さな身長が老齢によって腰が曲がっているために強調されていた、とあることから考えて、「真っ直ぐに立っていたにもかかわらず」が正解。

 

(答え)エ

 

万城は手を差し出し、老爺を乱暴に溝から引き上げます。まるで老爺がわら人形であるかのように。って、そりゃいくらなんでも無理でしょ。どんなに痩せていても30キロはあるでしょうからね。じいさんの肩、抜けてしまいますよ、ただでさえ、年よりの骨はもろいから。まあ、老爺が万城の手に両手でしがみつき、協力しているのでしょうが。

それはともかく、3人は車へ戻り、パリへと戻って行きました。

え、これで終わりですか?

このお爺さんが何者なのかの説明もなく、物語は突然終わってしまいました。

仕方ありません、僭越ながら私が設問を作りましょう。

 

設問(10)(河村の創作) Mangiarottiと溝にいた老人との関係について、どのようなことが想像できるか。老人の謎の行動の理由も含め、50字程度の日本語(句読点を含む)で説明せよ。

 

吉本新喜劇の人間でない限り、どう考えてもこのお爺さんは認知症です。万城はなぜこのお爺さんがここで徘徊していると知っていたのか?答えは、2人が親子だからです。この親父がいるがために、万城は結婚できないのです。

 

(答え)2人は親子であり、認知症の父親がときどき家を抜け出し、幼い頃を過ごしたパリ郊外を徘徊するのを息子が連れ戻す。(54字)

 

それにしても、万城はなぜ神木をここに連れてきたのか?普通、認知症の父親の存在は、隠したがるのではないでしょうか?

謎は深まるばかりです。

 

 

<全文>

 

One day, not long after I had started working for him, Mangiarotti said, “That’s enough work for today. Clear up, will you? I’ll be back in ten minutes.” It was typical of him to spring surprises on people, to do things ( (1) ) warning or explanation. I cleaned the paintbrushes carefully, knowing that Mangiarotti would make a fuss if even one tiny speck of paint remained on them. I wasn’t scared of him exactly, but he was a man with a sharp tongue, and I tried not to upset him. I packed everything away in the proper, Mangiarotti order: ladders on the left, buckets on the right, and so on.

After about a quarter of an hour a car pulled up, and there was Mangiarotti, at the steering-wheel of an old black Citroën. His face was gloomy as usual.

“Get in!” he said. The car pulled away quickly with a squeal of tyres before I’d hardly had a chance to close the door.

“Where are we going?” I asked.

He did not reply, which was his way of telling me to ( (2) ) my own business. I decided to settle back and enjoy what I ( (3) ) of the ride ― after all it was better than standing on a ladder painting shop fronts. I hadn’t the slightest idea where we were going, but we were soon out of Paris and in open countryside. With typical suddenness, Mangiarotti screeched to stop by the roadside and switched off the engine. I looked at him. He was staring straight ahead. I followed his gaze, but ( (4) ) I could see was a country road with a hedge running alongside it.

A movement on the grass verge caught my eye. It was a hat, an old black Homburg, the sort that businessmen used to wear, and it appeared to be alive. It moved forward, stopped, disappeared, bobbled up again for a second, then moved forward and disappeared again. It was such a ridiculous sight that I burst out ( (5) ), but Mangiarotti, who was also watching the hat, remained serious-faced.

As I turned again to look, it rose a couple of inches, revealing that there was a head underneath. It dawned on me that there was a ditch between the grass verge and the hedge, and that the wearer of the hat was down in the ditch. Mangiarotti got out of the car, and walked towards the mysterious hat. I didn’t know (6) whether I was supposed to follow him or stay in the car. My curiosity got the better of me, so I got out and hurried to catch up with him. He stood by the roadside, staring down at the hat and talking brusquely to it in an Italian dialect which I could not understand. I looked down too, and saw, under the hat, the red, wrinkled face of an old man. Despite the hot summer’s afternoon, he was wearing a black fur-collared overcoat which perfectly matched his ancient Homburg. The amazing thing was that, although he was ( (7) ), his head barely cleared the top of the ditch. He was an extremely short man, and his small stature was exaggerated by the bent body of old age.

Mangiarotti held out his hand to the old man and pulled him out of the ditch, roughly, as if he were a straw doll. Then we all got into the car, and started back for Paris.

 

 

<全訳>

 

マンジャロッティの下で働くようになってそれほど間もないある日、マンジャロッティは言った。「今日はこれぐらいにしよう。片付けてくれるか。10分で戻るから」人が驚くことを突然したり、警告や説明なしに何かをするのは、いかにも彼らしかった。小さなシミが1つでも残っていたら大騒ぎをすると知っているので、私はペンキのはけを入念に洗った。彼のことが必ずしも怖いわけではなかったが、口の悪い男だったので、気分を害さないようにしていた。梯子は左、バケツは右といったように、すべてをきちんと、マンジャロッティ式に仕舞った。

15分ほど後で車が止まり、マンジャロッティが黒くて古いシトロエンの運転席にいた。顔はいつものように憂鬱であった。

「乗れよ」とマンジャロッティは言った。私がドアを閉めるか閉めないかのうちに、車はタイヤを軋ませて急発進した。

「どこへ行くんですか」と私は聞いた。

彼は返事をしなかったが、それは「余計なことに口出しするな」という彼流の言い方であった。私は腰をすえ、このドライブから楽しめるものを楽しもうと決めた。何と言っても、梯子に乗って店先にペンキを塗っているよりはましだ。どこに向かっているのか見当もつかなかったが、まもなくパリを出て、開けた田園地帯へ入った。マンジャロッティらしい唐突さで、道端に急停車し、エンジンを切った。私は彼を見た。彼は真っ直ぐ前を見ていた。私は彼の視線をたどったが、見えるものといえば、田舎道とそれに沿って続く垣根だけだった。

道路べりの草地で動くものが私の目を捉えた。帽子であった。昔実業家が被っていたような古くて黒いホンブルグ帽であり、生きているように見えた。前進し、止まり、消え、また一瞬現れ、前進し、再び姿を消した、とても滑稽な光景だったので私は吹き出したが、マンジャロッティもその帽子を見ていたのに、真面目な顔のままだった。

再び振り返って見ると、帽子は2、3インチ持ち上がっていて、その下に頭があることがはっきりした。道端と垣根の間には溝があり、その帽子を被っている人間がその溝の中にいるのだということが私にわかり始めた。マンジャロッティは車を降り、その不思議な帽子へと歩いて行った。私は彼の後を追うべきか、車に留まるべきかわからなかった。好奇心に負け、私は車を降り、急いで彼に追いついた。彼は道端に立ち、帽子をじっと見下ろして、私にはわからないイタリア方言でぶっきらぼうに話しかけた。私も見下ろすと、帽子の下に、赤くて皺だらけの老人の顔が目に入った。暑い夏の午後にもかかわらず、その老人は古めかしいホンブルグ帽と完璧に釣り合った毛皮の襟がついた黒いコートを着ていた。驚いたことに、ちゃんと立っていたにもかかわらず、彼の頭は溝の上にかろうじて出ているだけであった。極端に背が低く、その小さな身長が老齢によって腰が曲がっているために強調されていた。

マンジャロッティは老人に手を差しのべ、老人がまるでわら人形であるかのように乱暴に溝から引きずり上げた。それから、私たちはみな車に乗り、パリへと引き返すこととなった。

 

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