第3話 『初七日のポレンタ』(2000年)

解説の都合上、英文をいくつかの段落に分けます。通して読みたい方は最後に全文と全訳が掲載されていますので、ご参照ください。

 

I came home from school one day to find a strange man in the kitchen. He was making something on the stove, peering intently into a saucepan.

“Who are you? What are you doing here?” I asked him. It was a week since my father died.

 

女の子が学校から家に帰ると、見知らぬ男が台所で料理を作っています。

最後まで女の子の年齢はわかりませんので、私の独断で中学2年生(理由は明らかにしませんが、中1や中3でないところが重要です)。名前は杏奈、今回はそのままです。

「あんた、誰?ここで何してんの?」

杏奈は不審に思います。そりゃそうですよね、赤の他人がプライバシーの権化とも言える台所を勝手に使っていて、しかも、杏奈のお父さんが亡くなってまだ1週間しか経っていないのですから。

ちなみに、stoveは暖房器具の「ストーブ」ではなく「レンジ」や「コンロ」を指します。

 

The man said, “Shh. Not now. Just a minute.” He had a strong foreign accent.

I recognised that he was concentrating and said, “What’s that you’re making?”

This time he glanced at me. “Polenta,” he said.

I went over to the stove and looked inside the saucepan. The stuff was yellowy, a thick semolina. “That looks disgusting,” I told him, and then went in search of my mother.

 

どうやら、男は外国人のようです。

あなたが学校から帰って台所を覗いたら、民族衣装をまとったインド人がスパイシーなカレーを作っている。かなりシュールな光景ですねぇ。

この物語では、謎の外国人が作っていたものは、ポレンタでした。

ポレンタとはコーンミールを粥の状態になるまで煮るイタリア料理です。トウモロコシの粉が鍋の底に焦げつかないようにこねながら煮上げますので、謎の外国人は集中しているのです。説明にあるように、黄色くてどろどろしており、料理中の見た目はよくありません。

状況を把握するために、杏奈は母親を探しに行きます。

 

I found her in the garden. “Mom, there’s a man in the kitchen. He’s cooking. He says he’s making polenta,”

“Yes, darling? Polenta?” said my mother.(1)I began to suspect she might not be much help. I wished my father were here. “I’m not exactly sure what that is,” my mother said vaguely.

“Mom, I don’t care about the polenta. Who is he? What’s he doing in our kitchen?”

 

お母さんは庭にいました。

「台所に男の人がいるよ。ポレンタを作っているんだって」

「え、なに、ポレンタ?」

 

設問(1)下線部(1)の説明として最も適当なものはどれか。次のうちから1つ選び、その記号を記せ。

(ア)母親は料理の知識が不足しているという落胆を表している。

(イ)母親は驚いていないのではないかという懸念を表している。

(ウ)母親は自分の質問を理解できないという失望を表している。

(エ)母親だけでは家の管理ができないという不安を表している。

 

そのあとの「お母さん、ポレンタなんかどうでもいいの。あの人誰なの?」という杏奈のせりふからもわかるように、杏奈は母親が台所にいる男の話をスルーしたことにショックを受けたのです。お母さんは台所で男が料理をしていても驚いていないのではないかと。ウと答える生徒が多いのですが、suspectから失望という訳は出てきませんし、何より杏奈は母親に質問をしていません。

 

(答え) イ

 

このour kitchenのourに注目しておいてください。もちろん、ここではourは杏奈と母親です。

 

“Ah!” exclaimed my mother. She was wearing a thin flowery summer dress, and I noticed suddenly how thin she was. My mother, I thought. (2)Everything seemed to pile on top of me and I found myself unexpectedly crying. “Don’t cry, love,” said my mother. “It’s all right. He’s our new lodger.” She hugged me.

I wiped my eyes, sniffing. “Lodger?”

“With your father gone,” my mother explained, “I’m afraid I’m having to (  (3)  ) one of the spare rooms.” She turned and began to walk back towards the house. We could see the lodger in the kitchen, moving about. I put my hand on my mother’s arm to stop her going inside.

 

母が「あっ」と叫んだとき、杏奈は花柄の夏服を着た母がいかに痩せているかに気づきます。

かわいそうなお母さん。そう思った瞬間、杏奈は思わず泣いてしまいました。

 

設問(2)下線部(2)に示される語り手の気持ちの説明として最も適当なものはどれか。次のうちから1つ選び、その記号を記せ。

(ア)I was still in the depths of depression.

(イ)I suddenly realised how defenseless she was.

(ウ)My mother’s arms felt heavy on my shoulders.

(エ)I suddenly felt that things were too much to bear.

 

下線部を直訳すると「あらゆることが自分の上にのしかかっているようだった」。杏奈のお父さんが亡くなってまだ1週間。お母さんはすっかりやつれている。「わたし、もうどうしたらいいか、わかんない!」杏奈は心の中でそう叫んだに違いありません。

(ア)「私はいまだに絶望の深みにいた」 杏奈が絶望を感じたのはこの瞬間ですから、stillはおかしい。

(イ)「母がいかに無力であるか、私は突然悟った」それはこの前にすでにわかっていたことです。

(ウ)「母の腕が私の肩に重く感じられた」母は杏奈の肩に手を置いてはいません。pile on top of meを文字通りに訳していますが、このような直接的連想の選択肢は典型的な誤りです。

(エ)「状況があまりにも耐えがたいと私は突然感じた」thingsは「一般的な状況」を指します。

 

(答え) エ

 

母は杏奈を抱きしめ、「あの人は下宿人よ」と慰めます。経済的な理由から、部屋を貸さなければならないと言って、家の中へ入ろうとする母を杏奈は引き止めます。

 

設問(3)空所(3)に入れるのに最も適当な語はどれか。次のうちから1つ選び、その記号を記せ。

(ア) close  (イ) decorate  (ウ) keep  (エ)let

 

文脈から、rentがあれば簡単なのでしょうが。使役動詞のletには「土地や家を人に貸す」の意味があります。

 

(答え) エ

 

“Is he living here then?” I asked. “With us? I mean, will he eat with us and ( (4) )?

“This is his home now,” said my mother. “We must make him feel at home.” She added, as if it were an afterthought, “His name’s Konstantin. He’s Russian.” Then she went inside.

I pause to take (  (5)  ) this information. A Russian. This sounded exotic and interesting and made me inclined to forgive his rudeness. I watched my mother enter the kitchen. Konstantin the Russian looked up and a smile lighted up his face. “Maria!” He opened his arms and she went up to him. They kissed on both cheeks. My mother looked around and beckoned to me.

 

「じゃあ、あの人、ここで暮らすの?私たちといっしょに」杏奈は母に問い質します。「つまり、私たちとごはんを食べたり、何もかもいっしょに?」

 

設問(4)空所(4)に入れるのに最も適当な語はどれか。次のうちから1つ選び、その記号を記せ。

(ア) anything  (イ) everything  (ウ) nothing  (エ)something

 

anyとeveryを混同している生徒は多いようです。Michael is taller than any other boy in the class.の構文でおなじみですが、肯定で用いられるanyには「いかなる、どんな」という意味があります。しかし、1つ1つだけでなく、全体をも意識するeveryと異なり、anyはどれでもいいけれども、どれか1つであって、「すべて」の意味を含みません。

(答え) イ

 

「そうよ、今ではここはあの人の家なんですからね」

母は取ってつけたように言います。

「名前はコンスタンチン。ロシア人よ」と言い残し、母は家の中へと消えました。

 

設問(5)空所(5)に入れるのに最も適当な語はどれか。次のうちから1つ選び、その記号を記せ。

(ア) down  (イ) in  (ウ) out  (エ)over

 

take in ~「~を取り入れる」。因みに、take inというイディオムはbe taken inで「だまされる」の意味での出題が最も一般的です。

 

ロシア人、杏奈はその異国的な響きに、これまでのコンスタンチンの無礼さを許す気になります。もし、あなたの家に突然外国人が下宿するようになったら、きっとわくわくするのではないでしょうか。

コンスタンチンは母を見て顔を紅潮させ、二人は互いの頬にキス。母は杏奈を手招きします。

 

“This is my daughter,” she said. (6)There was a note in her voice that I couldn’t identify. She stretched out her hand to me.

“Ah! You must be Anna,” the Russian said.

I was startled, not expecting him to have my name so readily on his lips. I looked at my mother. (7)She was giving nothing away. The Russian held out his hands and said, “Konstantin. I am very pleased to meet you. I have heard so much about you.”

We shook hands. I wanted to know how he had heard so much about me, (8)but couldn’t think of a way of asking, at least not with my mother there.

The Russian turned back to his cooking. He seemed familiar with our kitchen. He sprinkled salt and pepper over the top of the mass of semolina-like substance, and then carried it through to the living room. For some reason, my mother and I followed him. We all sat in armchairs and looked at one another. I thought I was the only one who felt any sense of (  (9)  ).

 

「これが私の娘なの」

そう言った母の声はどんな感じだったのでしょう?

 

設問(6)下線部(6)の意味に最も近いものはどれか。次のうちから1つ選び、その記号を記せ。

(ア)I didn’t know why she spoke so softly.

(イ)I couldn’t tell how she had changed her voice.

(ウ)The melody of her voice made it difficult to understand.

(エ)There was something unfamiliar about the way she spoke.

 

下線部の直訳は「母の声には私が正体をつかめない調子があった」。

noteは「声の調子」、関係代名詞thatの先行詞はvoiceではなくtoneです。関係詞の前が名詞+前置詞+名詞のとき、先行詞は直前の名詞ではなく、前置詞の前の名詞であることがよくあります。これは名詞①+前置詞+名詞②の中心の名詞が名詞①だからです。

(ア)私はなぜ母がそんなに優しく話すのかがわからなかった。

(イ)私は母がどのようにして声を変えたのかがわからなかった。

(ウ)母の声の抑揚のために、声がわかりにくくなった。

(エ)母の話し方にはどこか聞きなれない雰囲気があった。

杏奈には、そのときの母の声がまるで別人のような、よそいきな、普段のお母さんとは違う声音に聞こえたのでした。

 

(答え) エ

 

「あっ、きみが杏奈だね」

杏奈はコンスタンチンが自分の名前をやすやすと口にしたことに驚き、母に視線を投げますが・・・・・・

 

設問(7)下線部(7)の意味に最も近いものはどれか。次のうちから1つ選び、その記号を記せ。

(ア)She wasn’t holding out her hands.

(イ)Nothing was missing from the house.

(ウ)I couldn’t tell anything from her face.

(エ)The situation was completely under her control.

 

give awayには「ただでやる」以外に「正体を思わず現す、秘密をうっかりともらす」の意味があります。

「母は何も正体を現していなかった」とは、要するに、母は無表情で、コンスタンチンが杏奈のことをよく知っている理由を、母の顔からは読み取れなかったのです。

 

(答え) ウ

 

設問(8)下線部(8)を和訳せよ。

 

think of ~には「①~について考える、②~を思いつく、③~を思い出す」の意味があります。このwithは付帯状況。問題はat least notのnotが何を否定しているかです。

“Will he recover from his illness soon?”

“I’m afraid not.”

この会話文に見られるように、notだけで何を否定しているかわかるとき(この文ではI’m afraid he will not recover from his illness soon.)、not以外はすべて省略します。

at least以下を完全な文にすると、at least I could not think of a way of asking with my mother there.

東大英語は1に省略、2に省略です。

 

(答え) 全訳に下線部参照。

 

どうやらコンスタンチンはこの家の台所をよく知っているようです。

コンスタンチンはポレンタを作り終え、居間へと運びます。母も杏奈も従います。それぞれが肘掛椅子に座り、お互いの顔を見たときに、杏奈だけが感じていたのは、どんな感覚だったのでしょう?

 

設問(9)空所(9)に入れるのに最も適当な語はどれか。次のうちから1つ選び、その記号を記せ。

(ア) direction  (イ) humour  (ウ) purpose  (エ)unease

 

もちろん、当惑であり、落ち着きのなさ。(ア)方向、(イ)ユーモア、(ウ)目的。

 

(答え) エ

 

When I got home late next evening, Konstantin and my mother were deep in conversation over dinner. There were candles on the table.

“What’s going on?” I asked.

“Are you hungry, darling?” said my mother. We’ve left you some. It’s in the kitchen.”

I was starving. “No thanks,” I said sullenly. “I’m fine.”

Though it was early, I went upstairs to bed.

Later I heard my mother’s footsteps on the stairs. She came into my room and leant over me. I kept my eyes closed and breathed deeply. “Anna? she said, Anna, are you awake?”

I remained silent.

“I know you’re awake,” she said.

There was a pause. (10) I was on the point of giving in when she spoke again. She said, “Your father never loved me. You should not have had to know this. He did not love me.” She spoke each word with a terrible clarity, as if trying to burn them it into my brain. I squeezed my eyes tight. Rigid in my bed, I waited for my mother to leave the room, wondering if I would get (  (11)  ) all this with time.

 

翌日、杏奈が夜遅く帰ってくると、母とコンスタンチンは夕食を取りながら、どっぷり会話に浸っていました。おまけに、テーブルにはロウソクが。

「何事なの?」

「お腹減ってない?少し残してあるわよ。台所にあるからね」

ここにいたって、weはついに母とコンスタンチンになってしまいました。

杏奈はお腹ぺこぺこでしたが、「平気」と不機嫌に答え、早々と床につきに二階へ。

おそらく、杏奈のふくれ面が気になっていたのでしょう、後になって母は階段を上り、杏奈の部屋を訪れます。

眠っているふりをする杏奈に、母は「起きているんでしょう、わかっているわよ」。

母はしばらく口をつぐみ、杏奈のタヌキ寝入りが限界に達しそうになったとき、母はふたたび語りかけます。

 

設問(10) 下線部(10)の解釈として最もふさわしくないものはどれか。次のうちから1つ選び、その記号を記せ。

(ア) I was about to cry.

(イ) I was about to speak to her.

(ウ) I was about to open my eyes.

(エ) I was about to admit that I was awake.

 

下線部の意味は「私は今にも降参しそうになっていた」。

be on the point of Ving ~「今にも~しようとしている」= be about to V ~。杏奈は寝たふりをしていたわけですから、降参するとはそれがバレること。泣く泣かないの問題ではありません。

 

(答え) ア

 

「あなたのお父さんは私を愛してはくれなかった」

ここで母の衝撃の告白。

「こんなこと、知らない方がよかったでしょうけど、あの人は私を愛してくれなかったの」

母は一語一語を、杏奈の脳に焼きつけるかのように恐ろしいほどはっきりと口にしました。

杏奈は目をぎゅっと閉じ、身を硬くして、母が部屋から出て行くのを待ちます。時がたてば、このつらい経験を乗り越えられるのかと思いながら。

 

設問(11)空所(11)に入れるのに最も適当な語はどれか。次のうちから1つ選び、その記号を記せ。

(ア) at  (イ) in  (ウ) on  (エ)over

 

get over ~「~を克服する」。東大で出題されるイディオムはあまりむずかしいものはありません。

 

(答え) エ

 

お父さんが亡くなっただけでも大変なのに、お母さんに愛人がいたなんて。しかも、外国人で名前がコンスタンチン。杏奈のショックはいかばかりのものでしょうか。

杏奈の明日に幸あれ!

 

 

<全文>

I came home from school one day to find a strange man in the kitchen. He was making something on the stove, peering intently into a saucepan.

“Who are you? What are you doing here?” I asked him. It was a week since my father died.

The man said, “Shh. Not now. Just a minute.” He had a strong foreign accent.

I recognised that he was concentrating and said, “What’s that you’re making?”

This time he glanced at me. “Polenta,” he said.

I went over to the stove and looked inside the saucepan. The stuff was yellowy, a thick semolina. “That looks disgusting,” I told him, and then went in search of my mother.

I found her in the garden. “Mom, there’s a man in the kitchen. He’s cooking. He says he’s making polenta,”

“Yes, darling? Polenta?” said my mother.(1)I began to suspect she might not be much help. I wished my father were here. “I’m not exactly sure what that is,” my mother said vaguely.

“Mom, I don’t care about the polenta. Who is he? What’s he doing in our kitchen?”

“Ah!” exclaimed my mother. She was wearing a thin flowery summer dress, and I noticed suddenly how thin she was. My mother, I thought. (2)Everything seemed to pile on top of me and I found myself unexpectedly crying. “Don’t cry, love,” said my mother. “It’s all right. He’s our new lodger.” She hugged me.

I wiped my eyes, sniffing. “Lodger?”

“With your father gone,” my mother explained, “I’m afraid I’m having to (  (3)  ) one of the spare rooms.” She turned and began to walk back towards the house. We could see the lodger in the kitchen, moving about. I put my hand on my mother’s arm to stop her going inside.

“Is he living here then?” I asked. “With us? I mean, will he eat with us and ( (4) )?

“This is his home now,” said my mother. “We must make him feel at home.” She added, as if it were an afterthought, “His name’s Konstantin. He’s Russian.” Then she went inside.

I pause to take (  (5)  ) this information. A Russian. This sounded exotic and interesting and made me inclined to forgive his rudeness. I watched my mother enter the kitchen. Konstantin the Russian looked up and a smile lighted up his face. “Maria!” He opened his arms and she went up to him. They kissed on both cheeks. My mother looked around and beckoned to me.

“This is my daughter,” she said. (6)There was a note in her voice that I couldn’t identify. She stretched out her hand to me.

“Ah! You must be Anna,” the Russian said.

I was startled, not expecting him to have my name so readily on his lips. I looked at my mother. (7)She was giving nothing away. The Russian held out his hands and said, “Konstantin. I am very pleased to meet you. I have heard so much about you.”

We shook hands. I wanted to know how he had heard so much about me, (8)but couldn’t think of a way of asking, at least not with my mother there.

The Russian turned back to his cooking. He seemed familiar with our kitchen. He sprinkled salt and pepper over the top of the mass of semolina-like substance, and then carried it through to the living room. For some reason, my mother and I followed him. We all sat in armchairs and looked at one another. I thought I was the only one who felt any sense of (  (9)  ).

When I got home late next evening, Konstantin and my mother were deep in conversation over dinner. There were candles on the table.

“What’s going on?” I asked.

“Are you hungry, darling?” said my mother. We’ve left you some. It’s in the kitchen.”

I was starving. “No thanks,” I said sullenly. “I’m fine.”

Though it was early, I went upstairs to bed.

Later I heard my mother’s footsteps on the stairs. She came into my room and leant over me. I kept my eyes closed and breathed deeply. “Anna? she said, Anna, are you awake?”

I remained silent.

“I know you’re awake,” she said.

There was a pause. (10) I was on the point of giving in when she spoke again. She said, “Your father never loved me. You should not have had to know this. He did not love me.” She spoke each word with a terrible clarity, as if trying to burn them it into my brain. I squeezed my eyes tight. Rigid in my bed, I waited for my mother to leave the room, wondering if I would get (  (11)  ) all this with time.

 

<全訳>

ある日学校から帰ると、見知らぬ男が台所にいた。男はガスレンジで何かを作っており、なべの中を熱心に覗き込んでいた。

「誰?ここでなにしてんの?」私は尋ねた。父の死から1週間が経っていた。

男は言った。「しっ!今はだめ。ちょっと待って」強い外国人なまりだった。

私は彼が集中しているのが分かったので、言った。「何を作ってるの?」

今度は彼は私をちらりと見た。「ポレンタだ」と言った。

私はレンジのそばに行って、なべの中を見た。材料は黄色っぽい、べとべとどろどろしたセモリーナ(小麦粉の一種)だった。「気持ち悪い」と私は言ってから、母を捜しに家を出た。

母は庭にいた。「お母さん、台所に男の人がいるよ。料理をしているの。ポレンタを作っていると言っているんだけど」

「うん、なに?ポレンタ?」と母は言った。私は母があまりあてにならないと思い始めた。お父さんが今ここにいてくれたら。「どんなものかよくわからないわ」と母はぼんやりと言った。

「お母さん、ポレンタはどうでもいいの。あの人は誰?うちの台所で何をしているの?」

「ああ」と母は叫んだ。母は薄い花柄の夏服を着ていて、突然私は母がいかに痩せているかに気づいた。お母さん、と私は思った。すべてが私の上にのしかかったように思えて、気がつくと泣いていた。「泣かないで」と母は言った。「大丈夫だから。あの人はうちの新しい下宿人よ」母は私を抱きしめた。

私は鼻をすすりながら、涙を拭いた。「下宿人?」

「お父さんが死んで」母は説明した。「空いている部屋を一つ貸さなければならなのよ」母は向きを変え、歩いて家へ戻り始めた。私たちには下宿人が台所で動き回っているのが見えた。私は手を母の腕にかけ、中へ入るのを止めようとした。

「じゃあ、あの人はここで暮らすの?」と私は尋ねた。「私たちと一緒に?つまり、一緒にご飯を食べたり、何もかもいっしょに?」

「ここはもうあの人の家なのよ」と母は言った。「彼がくつろげるようにしてあげなきゃ」母はまるで後で思いついたかのように付け加えた。「名前はコンスタンチン。ロシア人よ」そう言って母は中に入った。

私は立ち止まり、この情報を理解しようとした。ロシア人。それは異国的で興味深く聞こえ、私は彼の無礼を許してやりたくなった。私は母が台所に入るのを見つめた。ロシア人、コンスタンチンは顔を上げ、微笑で顔が明るくなった。「マリア!」彼は両腕を広げ、母は彼の元に駆け寄った。二人は両頬にキスをしあった。母は振り向き、私を手招きした。

「これがうちの娘」母の声には母のものだとは思えない響きがあった。母は私へ腕を伸ばした。

「ああ、アンナだね」とロシア人は言った。

男が私の名前をそうやすやすと唇に乗せるとは予想もしていなかったので、私はびっくりした。私は母を見た。母の表情からは何もわからない。ロシア人は両手を差し出して言った。「コンスタンチンです。会えてとてもうれしいです。あなたの噂はいろいろと聞いています」

私たちは握手した。私はどうして彼が私の話をそれほど聞いているのか知りたかった。(8)しかし、尋ねる方法が思いつかなかった。少なくとも母がそこにいては

ロシア人は料理に戻った。男は我が家の台所のことをよく知っている様子だった。セモリーナに似た物のかたまりの上に塩とコショウをふりかけ、それを居間に運んだ。なんとなく母と私はあとに続いた。私たちはみな肘掛け椅子に腰かけ、お互いを見た。当惑しているのは私だけだった。

次の晩遅く家に帰ると、コンスタンチンと母は夕食をとりながら、会話に没頭していた。テーブルの上にはろうそくが立っていた。

「何事なの?」私は尋ねた。

「お腹がすいているでしょう?」母は言った。「少し残してあるから。台所にあるわ」

お腹はぺこぺこだった。「いらない」私はむすっと言った。「平気よ」

まだ早かったが、二階に上がって床についた。

あとで母の足音が階段を上がってくるのが聞こえた。母は私の部屋に入り、私の上に身を乗り出した。私は目を閉じたまま、深く呼吸した。「アンナ?」母は言った。「アンナ、起きているんでしょう?」

私は黙ったままでいた。

「起きているのはわかっているのよ」と母は言った。

一瞬間があいた。私が今にも降参しようとしたとき、母が再び口を開いた。母は言った。「あなたのお父さんは私のことを一度も愛してくれなかった。こんなことは知らないほうがよかったんだけどね。私を愛してくれなかったの」まるで私の脳に焼き付けるかのように、母は一語一語を恐ろしいほどはっきりと話した。私は目をぎゅっと固く閉じた。ベッドの中で身を固くして、母が部屋から出て行くのを待った。時が経てば、これをすべて乗り越えられるのだろうかと思いながら。