減点されない英作文+α

2006年に『減点されない英作文』が出版されたとき、著者である私自身が難関大学受験生にこれほど支持されるとは予想しませんでした。その後、『もっと・減点されない英作文』を出し、2016年にはそれぞれの改訂版。そして、現在まで毎年増刷を重ねてきました。

これまでの2冊は英作文という性質上ハイレベルであり、むずかしいという声をよく耳にします。そこで、入試で英作文を必要とするあらゆる受験生に対応できる、少しだけ基礎的な参考書を企画中です。3冊そろえば、私の英作文スキルは余すところなく伝えられそうです。

ただ1つ心残りなのは、『減点されない英作文』のLesson100の中に入れることができなかったLessonがあることです。弊塾の生徒は英作文の授業中に、その+αのLessonを聞けますが、塾生ではない受験生にはその機会がありませんので、この場を借りて説明したいと思います。

 

+αその1『必ず見直しをする』

 

英作文の書きっぱなしは厳禁です。ケアレスミスをしないで英語が書ける受験生はほとんどいません。見直すポイントはまず時制(過去形の文脈で突然現在形になっていないかなど。日本人はちょっと気を抜くと、動詞が現在形になります)、次に名詞の単数・複数、最後にS Vの一致と名詞・代名詞の一致です(複数名詞をitで指していないかなど)。3単現のsを落とすことがあなたの人生を変えるかもしれません。私の経験上、3単現で最も間違いが多いのは、hasと書くべきところをhaveと書くもの。haveを使っていたら、主語が3人称単数ではないかを必ずチェックしましょう。

 

+αその2『つねに能動・受動を意識する』

 

英語と日本語の大きな違いの1つが日本語はほとんど受動態を使わないことです。

英語には「—を~させる」の意味の動詞が多く、こういった動詞は—を主語にすると「—は~させられる」で受動態になります。たとえば、delayは「乗り物を遅らせる(遅れさせる)」ですから、乗り物を主語にすると、The train was delayed because of the fog.になります。ところが、和訳は「電車は霧のために遅れた」で、英語が受動であることが霧散します。英語の受動態が日本語に訳したとたん受動態ではなくなる。これは日本人にとって英語をむずかしくしている大きな要因の1つでしょう。分詞構文の代表的な文法問題、Seen from a distanceを「ちょっと離れたところから見ると」ではなく、「ちょっと離れたところから見られると」と訳せば、Seeing from a distanceという間違いはなくなるのでしょうが、日本語では「見られる」は不自然なのです。

逆に、「~のように思われる」や「~が引き起こされる」といった数少ない日本語の受動態から、S be seemedやS be happenedといった間違いをする生徒も少なくありません(seemもhappenも自動詞ですから受動態にはできません『減点されない英作文』Lesson66)。

能動・受動を書き間違わないコツは2つあります。

1つ目は、受動態を書くときにまず能動態を考えること(『減点されない英作文』Lesson65)。「(私は)彼女が私の兄を愛していると言われた」がI was told that she loved[loves] my brother.であって、I was said that she loved[loves] my brother.とは言えないことを理解するには、能動態でShe told me that she loved my brother.は正しいが、sayは人を目的語にはできないので、She said me that ~が間違いだとわかる必要があります。

It is said that she is a millionaire.とは言えます。They say that she is a millionaire.という能動態の目的語であるthat節を主語にしてThat she is a millionaire is said (be them).という受動態ができ、主語を形式主語に置き換えれば、It is said that she is a millionaire.となるわけです。また、これはShe is said to be a millionaire.とも言えますから(あくまで例外的な言い方だと思ってください)、人 be said that ~という間違いが後を絶たないのでしょうね。

もう1つは主語が無生物のときはいつでも受動を意識することです。そうすれば、It can say that ~と書く間違いはなくなりますよ(正しくはIt can be said that ~)。

 

+αその3『和訳に意味の現れない前置詞に注意する』

 

一般的な受験生にとって、文法単元で最も苦労するのは関係詞のようです。ただ、長い間英語に触れていれば関係詞は問題なくなります。日本人英語学習者にとって、一番手こずるのは、やはり前置詞ではないでしょうか。ということは、受験生には、前置詞+関係代名詞がとんでもない難敵というになりますね。

前置詞のむずかしさはなんと言っても、その意味が日本語に現れないことが多いということです。ですから、和訳の場合はそれほど問題が生じません。

This is a means by which we can prevent the virus from spreading.

この英文を和訳するとき、byは訳出しませんね。「これは(それによって)そのウイルスが広がるのを防ぐ1つの手段だ」

ところが、英作となると大変で、「これはそのウイルスが広がるのを防ぐ1つの手段だ」をThis is a means which we can prevent the virus from spreading.と書く人がたくさん出てくるのです。

前置詞+関係代名詞は、難関大学英作文の大きな壁です。心がけるべきポイントは1点。関係代名詞に続く文構造をよく考えることです。具体的には代名詞だけを補えば文になるのか、前置詞+代名詞を補わないと文にならないのか、です(これは関係代名詞か関係副詞かを判断するときに、後ろの文に欠けているのが代名詞なのか副詞なのかを考えるのと全く同じです。『減点されない英作文』Lesson44)。

「外国語を学ぶことは世界を見る新たな視点を与えてくれる」の英訳Learning a foreign language gives us new viewpoints which we can see the world.がなぜ間違いなのかを考えてみましょう。もしwhichが正しいのであれば、which=new viewpointsですから、we can see the worldにnew viewpoints(=theyかthem)を補って文が成立しなければなりませんね。ところが、weという主語があり、seeの目的語はthe worldですから、theyもthemも補えず、we can see the world from them.としなければなりません。もしも和訳が「外国語を学ぶことはそこから世界を見る新たな視点を与えてくれる」ならば、from them(=new viewpoints) → from whichを思いつくことができるかもしれません。

日本語は名詞修飾に関してはとても便利な言葉です。それゆえ、日本人は関係詞で苦しむのです。前置詞+関係代名詞のコツは、名詞修飾を文の形にすることです。「そのウイルスが広がるのを防ぐ1つの手段」→「1つの手段によってそのウイルスを広がるのを防ぐ」、「世界を見る新たな視点」→「新たな視点から世界を見る」。そして、下線部を表す前置詞を考えてください。そうすれば、「大きな犬に追いかけられる夢を見た」をI had a dream which I was chased by a big dog.とは書かなくなるでしょう。「大きな犬に追いかけられる夢」→「夢の中で大きな犬に追いかけられる」となり、I had a dream in which I was chased by a big dog.と書けるはずです。

 

+αその4『名詞がうまくつながるように書く』

 

文脈によって言葉の意味が決まる度合いを文脈依存度と言いますが、日本語は文脈依存度が高く、英語は低い。とくに、名詞に関してはそうです。ですから文中の名詞がうまくつながるように意識します。日本語はほとんど代名詞を使いませんので、名詞を代名詞に置き換える意識も大切です(『減点されない英作文』Lesson24と29)。

では、次の入試問題を例に実践してみます。

「本を読む時も、著者の考えを無批判に受け入れ、その内容について自分では考えないで他の人に伝えるのでは、本を読む意味はありません(2020年大阪大学)」

なぜか「その内容」にだけ、限定語の「その」がついていますが、もちろん「著者」も2つ目の「本」も限定語がつき、「ある本を読む時も、その著者の考えを無批判に受け入れ、その内容(それら)について自分では考えないでそれらを他の人に伝えるのでは、その本を読む意味はありません」と書くと、「本」という名詞がうまくつながります(「内容」という日本語は英語に訳す必要がない場合が多いです(『減点されない英作文』Lesson27の例2))。

コツはとてもシンプル。まず、a+名詞(もしくは無冠詞複数形)を出す。次にその名詞を代名詞かthe+名詞に置き換える、ただそれだけです。最初にa+名詞を出すことがとても重要です。英語は基本的にいきなり限定された名詞を使いませんから。

(解答例)

When you read a book, it is meaningless to read it (the book) if you accept uncritically its author’s thoughts and communicate them to others without thinking of them for yourself.

 

+αその5『接続詞を使わず前置詞を使う』

 

その3でも触れましたが、私の経験上、日本人にとって前置詞よりも接続詞のほうが簡単に使えます。ただ問題は、前置詞を使ったほうが、節よりも句のほうが短く書けるということです。英語にとって1語でも短く書くことは絶対的な正義ですから、日本語が接続詞と動詞で表現していても、そこを前置詞で書くくせをつけましょう(ただし、前置詞を使うと後ろが複雑で長くなる場合は別で、接続詞を使ってください(『減点されない英作文』Lesson88))。

1つ具体例を挙げておきましょう。

「西洋では、子供がある年齢になると、親から独立するように促す」

下線部分に接続詞を使うと、when children become a certain ageですが、前置詞を使えば、at a certain ageですみます。その4で説明したように、まずparentsを出して、their childrenとつないでいきましょう。

(解答例)

 In the West, parents urge their children to become independent of them at a certain age.

 

+αその6『肯定・否定を逆にする』

 

英語と比べると、日本語には否定表現が多い気がします。たとえば、Please remain seated until the bus stops.が「バスが止まるまで、立ち上がらないでください」となるように。また、日本語には二重否定も多いですね。もちろん、英語にも二重否定はありますが、なるべく肯定で書きましょうね。

「幸せを望まない人はいない」は There is no one that doesn’t desire happiness.(There is no one but desires happiness.)よりも、Everybody desires happiness.「誰もが幸せを望む」。短く、短くです。

塾生に「となりに住むイギリス人の老夫婦は庭の手入れが大好きで、花を欠かしたことがない」を書かせると、5人のうち4人が下線部をnever lackとかnever missと書きます。英語は肯定で表現!を肝に銘じていれば、「庭に花を欠かしたことがない」→「庭にはいつでも花がある」と考えられ、they always have flowers in their gardenと、とても簡単に表現できます。

もう1つ。「彼は語学の才能があり、大学でどんな外国語も苦にならないだろう」の下線部にhave no difficultyを使うのもいいですが、「苦労しない」→「簡単にできる」と考え、he can easily learn any foreign languageと書く発想を持てば、英作の力が一段とアップしますよ。

 

+αその7『共通関係に注目する』

 

塾生が課題文の共通関係を読み間違えることがよくあります。

たとえば、「新聞や雑誌の記事が、数年前ならエコロジーなんて聞いたこともなかったであろう人々にとって、その言葉を身近なものにしてきた」の下線部をnewspapers and articles of magazinesと書くのです。「の記事」は新聞と雑誌に共通にかかると考えるのが自然です。正しくはnewspaper and magazine articles。このnewspaperとmagazineは形容詞的にarticlesを修飾しますから、単数形です(articles of newspapers and magazinesとも書けます)。

もう1題見てみましょう。

「私たちは岩手が生んだ宮沢賢治のことを誇りに思い、自然や環境にたいする彼の精神を未来に引き継いでいかなければならない」をWe are proud that Miyazawa Kenji was born in Iwate and have to hand down his attitudes toward nature and the environment to future generations.と書く生徒をたくさん見てきました。しかし、「ならない」は「引き継ぐ」だけでなく「誇りに思う」にもかかるはずです。この英文ですと、私たちは実際に宮沢賢治を誇りに思っていることになり、すべきことはその精神を引き継ぐことだけになってしまいます。正しくは、We have to be proud that Miyazawa Kenji was born in Iwate and hand down ~とhave toがbe proudにもhand downにもかかるように書きます。

また、共通関係に加え、「岩手が生んだ宮沢賢治」を修飾関係で書いていない点にも注目してください。日本語の名詞修飾を英語では名詞修飾で書かないことはよくあります(『減点されない英作文』Lesson6、45)。

 

+αその8『日本語をよく読み、その意味をよく考える』

 

受験生のみなさんは英語をむずかしい言葉だと思っているでしょうが、他のヨーロッパの言語、少なくともドイツ語やフランス語に比べると間違いなく簡単です。大学でフランス語を習ったとき、これならまだ英語のほうがものになるかもしれないと思ったことが、私が英語の勉強を始めたきっかけです。

では、日本語と英語はどうでしょう?日本人は必要以上に日本語をむずかしいと考えると言われますが、それでも私は日本語のほうがむずかしいと思います。

日本語のむずかしさは+αその4で触れた『文脈』が強く働くことですね。同じ単語が前後関係によっては意味が違うことがよくあります。

簡単な例を挙げます。

「日本人は毎日のように、何らかの形で外国語の刺激を受けている」の下線部をlike every dayと書く生徒がいます。もちろん、この「ように」は似ていることを表しているのではなく、「ほとんど」の意味ですから、almost every day。

英作文を正しく書くには、課題の日本文が正しく読めるという大前提があることを忘れないでください。

代表格が京都大学です。京大の英作文はまず日本文の意味を理解することを求めており、そのまま翻訳機にかけてもムダな日本文を意図的に出題します。和文和訳した上で、英訳する必要があります。その要領は『もっと・減点されない英作文』の中間文の作り方を参考にしてください。

ジーナスの塾生が一番読み間違う「見直す」という動詞を取り上げてみます。次の2文の「見直す」が違う意味であることが理解できますか?

1「大切なことは、読書を通じて、自分のそれまで持っていた考えや生き方を振り返って吟味し、さらには、自分の生き方を見直すということです」

2「最近の日本人は食生活の伝統を忘れ、思慮もなく習慣を変えてしまった。私たちは、今一度、日本の伝統を見直す必要がありそうである」

1は批判的に「見直して変える、止める」の意味ですから、reconsider, reexamine。

2は何かの長所を「再発見する」、「再評価する」の意味ですから、rediscover, reevaluate。

同じ見直すでも、否定的に見直す場合と肯定的に見直す場合とがあるわけですね。

 

以上が弊塾に通わず、自力で『減点されない英作文』を使って勉強されている受験生のみなさんに、私が常日頃追加説明したいと考えてきたポイントでした。

 

2023年7月     河村一誠